演技とは何をすることなのか?

こんにちは、DECO MUSIC SCHOOLで演技と話し方のレッスンを行っている俳優・演出家・演技講師の藤波瞬平です。

今年は梅雨らしい梅雨ですね。

この時期の蒸し暑さに気を取られるとしんどくなってしまいますが、聞こえてくる音や香ってくる匂いに意識を向けると、梅雨も悪くないなと思えてきます。

実際、雨音や土の匂いには心身をリラックスさせたり、睡眠の質を向上させるなどの効果もあるようです。

物事は捉え方次第ということですかね。

さて、今回は「演技とは何をすることなのか?」というテーマについて書いてみたいと思います。

演技は感情を表現することなのか?

「演技って何をすることなんでしょうね?」

この質問は、私がこれまでに現役俳優からそうでない方まで、1000名を超える方々に聞いてきた言葉です。

この質問に対して私が直接聞いてきたかぎりでは、およそ9割の方が以下のように返答しました。

感情を表現すること

感情を込めること

感情をつくること

確かに、私自身も養成所に通っていた頃はそう思っていました。

しかし、段々とこの「感情を重視する演技」に行き詰まりを感じ始めたのです。

そんなとき、あるワークショップを受けたことがきっかけで、

人間は感情を表現するために生きているわけではない

という、至極当たり前のことに気付かされたのです。

誰かを止める。

元気づける。

謝らせる。

許してもらう。

そんな目的を持って相手に働きかけ、その結果として感情が生まれる……

それ以来、私の演技に対する考え方は大きく変わりました。

演技とは「行動」の技術である

演技とは、

「状況の中で対象に作用し、その反応を受けながら行動し続けること」

だと私は考えています。

ここで言う「対象」とは、共演者だけではありません。

観客、語りかける相手、自分自身、あるいは目の前に広がる景色など、「今、その瞬間に自分が働きかけている存在すべて」を指します。

今、私たちが映画やドラマでよく目にする「人間をあるがままに演じる」という考え方は、およそ100年ほど前に西洋から伝わりました。

日本では一般的に「俳優」と訳されている「Actor」という言葉は、「行う」を意味するラテン語「agere」を語源に持ち、「行動する者」という意味があります。

私は、この語源が演技の本質をよく表していると思えてなりません。

だからこそ私は、演技を「感情を表現する技術」ではなく、「状況の中で行動する技術」だと捉えています。

なぜなら、感情は行動した結果として自然に生まれるものだからです。

「自分」ではなく、「相手」へ

例えば、

「帰る」

というセリフがあったとします。

「悲しそうに言おう」

「不自然にならないように」

「ちゃんと悲しそうに見えたかな」

そういった“感情”を考えた瞬間に、意識は自分に向かってしまいます。

これでは、「自分がどう見えるか」ばかりが優先され、「相手がどう反応するのか」など、相手に意識を向けることがなくなってしまうでしょう。

一方で、

「引き止めてほしい」

という目的があればどうでしょう?

相手を意識し、相手に作用し、相手が反応し、その結果を受けて自分もまた変化する。

こうなると、演技が一方的な行為ではなく、相互的なものになります。

この過程で、もし悲しさが生まれたのなら、それは演じて作った感情ではありません。

人間として自然に起きた反応なのです。

結果ではなく原因をつくる

私は、感情演技は再現性が低いと考えています。

リハーサルでは泣けた、

でも本番では泣けない。

(これではそもそも仕事になりませんよね……)

先述の通り、感情は結果だからです。

結果だけを毎回同じように再現することは、演技に限らず簡単なことではありません。

私のレッスンでは、「感情をつくったり、湧き起こそうとする練習」は行いません。

代わりに、

・今どんな状況なのか?

・何を起こしたいのか?

・誰に作用しているのか?

こういったことを徹底的に考えます。

再現すべきなのは感情ではなく、状況や目的、作用といった「そこに至るまでの過程」なのです。

再現性のある演技は、このようにして生まれます。

「何を感じるか」ではなく、「何を起こすか」

レッスンでは、

「どんな気持ちですか?」

とは聞きませんし、

「もっと感情を出して!」

ということは一切言いません。

代わりに、

「今、対象に何を起こしたいですか?」

といった質問をします。

止める。

気付かせる。

安心させる。

笑わせる。

作用が生まれると、対象は反応します。

その反応を受けて、自分もまた反応します。

このやりとりを繰り返していくことで、

視線・距離・角度・呼吸・音色・身体の使い方まで、自然に変わっていきます。

これが、人間らしい演技に繋がると考えています。

まとめ

もちろん、一人でも演技の練習は出来ます。

ですが、

「本当に対象に作用できているか」「相手の反応を受け取れているか」というのは、自分ではやれていると思っていても、実際は「やっているつもり」になってしまっていることがとても多いのです。

そこで私が客観的な視点から、

・状況は見えているか?

・対象を捉えているか?

・作用は届いているか?

・相手の反応を受けて変化できているか?

といった部分を確認しながらレッスンしていきます。

感情を表現する練習ではなく、

人間として働きかけ、反応する練習。

だからこそ、演技だけでなく、日常のコミュニケーションも変わったという方も少なくありません。

最後まで読んでいただき、有難うございました。

演技は、特別な才能があるから出来るものではありません。

状況があり、対象に作用し、その反応を受けてまた行動し続ける。

その連続こそが、人間の営みであり、演技なのです。

こんな考え方が、皆さんにとって演技をよりシンプルで身近なものと捉えるきっかけになれば嬉しいです。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう!